プログラム:6つの眼差しと<倫理マシーン> フェアユース運動の画期的な成功

Ethics

世界人権宣言第27条には、下記の条文が盛り込まれている。

  1. すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。
  2. すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。

前者が自由な創作を約束し、後者はその保護が謡われており、表裏一体の事柄が記されている。プログラム「6つの眼差しと<倫理マシーン>」最初のセッションでは、ゲストのゴードン・クイン監督がこの文章を引き合いに出しながら、自身が中心人物のひとりとなっている「フェアユースムーブメント」について語った。

「フェアユース」とは他に権利者が存在する映像や音楽を、クリエーターが権利者の許諾を得ずに使用した場合でも、それが自分の作品に必要不可欠で最低限の尺の利用であれば、「公正な利用」であると見なすことである。

映画の一場面で、黒人の少年の誕生日パーティーが映し出される。ケーキのロウソクを吹き消す彼を囲む家族や親類が、一斉にあの歌を口ずさむ。「Happy birthday to you!」。

米国のヘルスケア業界批判のために製作されたドキュメンタリーでは、第二次世界大戦後傷病に苦しむ兵士達を最初のターゲットに、医療関係の巨大企業がどのようにして急成長してきたか描くために、過去の古い雑誌や画像を使ってその経緯を説明する。

いずれもドキュメンタリー映画ではよくあるシーンだが、映像メディアに様々な関係者が存在し、権利を保有する大企業がその管理に敏感になっている昨今、映像制作者はいちいち権利者へ許諾をとらなければならない。クイン監督は自身が監督した映画「フープ・ドリームズ」の中で、先述の「ハッピーバースデイ」(100年前に作曲されながら今も著作権で保護されている)をほんの数秒挿入するために、数千ドルの出費を余儀なくされた。

権利者から許諾を得ることが、予算をかけないドキュメンタリー映画の制作に支障を来すレベルになってきたことで、クイン監督は1990年代から同業の監督やインディペンデントの映画制作会社とともに立ち上がり「フェアユース」という概念の世間への浸透させるべく運動を展開した。そして、2005年「公正な利用の最前な運用についてのドキュメンタリー映画作家の声明」と題した文章を発表し「フェアユース」の定義を定めた。

「我々は法を変えることも、法廷に立つこともしなかった。この声明を発表したこと自体が大きなバックアップになった」とクイン監督は語った。自ら数多くの弁護士などと面会しフェアユースに対する理解を広めていった。

「民主主義国家において映像制作をするため、映像・音楽のフェアユースは必要だ」。クイン監督は力説する。民主主義を標榜する国家は自由闊達な創作およびその批判が可能でなくてはならない。批評や批判を目的に制作されるドキュメンタリー映画はその急先鋒であり、映像・音楽の権利問題によって、それが阻害されてはならない。

著作者・著作物の保護と縛られる事のない自由な表現。互いに正しさを主張する権利と権利の見えない戦いは始まったばかりだ。

執筆者:編集部 梅木壮一