地球の反対側から届いた、若者たちの思い

教育を受ける権利を守るため立ち上がるブラジルの高校生たちを描いた「これは君の闘争だ」。山形国際ドキュメンタリー映画祭2019での上映では大きな反響を呼び、優秀賞を受賞しました。

山形の高校生はこの作品をどのように受け止め、どのような問いを監督に投げかけたのでしょうか?
映画祭高校生チーム<ドキュ山ユース>による、エリザ・カパイ監督へのインタビューです。

インタビューの様子

_この映画は、リズミカルな語りと音楽が印象的でした。なぜテンポのいい音楽を取り入れたのですか。

この映画を撮り終え、高校生たちに90分という尺を伝えると「そんなの長すぎる!」という反応が返ってきました。そこで普段映画を見慣れない高校生を退屈させないよう、アクティブな要素が欲しいと思い、リズミカルな音楽を取り入れたのです。この映画には3人の主人公が登場しますが、私は4人目の主人公がいると思っています。それは音楽です。あるシーンで音量が大きすぎる、何を言っているのかわからないと言われたことがありました。しかし、私としては、そのシーンは音楽が存在を主張していい所で、むしろもっと音量を上げるべきだと思いました。

_作品のなかで同性愛者の方が描かれていましたが、なぜそのトピックにクローズアップしたのですか?

LGBTを映画で取り上げたのは、それが自分自身を表現する武器だからです。男女関係に限らず、誰とキスをし、誰を愛すのかというのもすべて自分が考えることです。この映画には2人の女の子がでてきます。そのうちの1人はこの学生運動に参加していなかったら、彼女はいつになっても女性を好きになるという自分に気づけなかったと思います。デモという場は、そこに参加する若者たちにとって安心して自分を表現することのできる空間でした。

私もかつてフェミニズム運動に参加したことがあります。その時に出会った1人の女の子が露出の多いぴちぴちの服を着ていました。私はつい母親になった気持ちでその子に「ちゃんと服を着なさいよ」と声をかけてしまいました。そのとき彼女は、「私に触れないで。これは私の身体。私がなにを着ようと、どうやって私を表現しようとそれはあなたには関係ない」と答えたのです。私は黙り込んでしまいました。やっとそこで自分はなんて失礼な質問をしたのだと気づきました。それから、自分の映画にもジェンダーのことを取り入れることで自分の個性を表現する場を見せたいと思うようになりました。

世界的にLGBTというのは重視されてきています。しかしいまだにブラジルでは、カトリックの伝統に反しているという理由で殺される人もいます。だからこそ、若い世代の人たちから、より強い意思をもって発言していく運動をするべきです。私もこの映画を通して、LGBTも一つの個性だということを伝えたかったのです。

_多様性というのも作品の一つのテーマだと思いました。多文化社会を築くにはどのような事が必要だと考えますか?

ブラジルには日本とは比べられないくらいのたくさんの歴史があります。その一つに奴隷制度がありますが、廃止されたのは19世紀後半のことにすぎません。だから、人々の間には差別意識がいまだ根強く残っています。

多文化社会のなかで多様な価値観に触れることで、自分はどうありたいのかを考える事ができるのだと思います。また、自分の考え方や社会に対する考え方、人に対する思いやりを考え直す事ができます。若い頃の私は両親の言うことを鵜呑みにしていましたが、サンパウロに引っ越してさまざまなバックグラウンドの人々と話していくうちに、両親とは異なる考えを持つようになりました。周りの意見がカラフルであればあるほど自分の意見もカラフルになれるのです。

 

「これは君の闘争だ」の一場面。強権的な当局に対し情熱とユーモアをもって立ち向かいながら、若者たちは仲間を見つけ、自分を表現する喜びを見出してゆく。

_ブラジル国内での上映ではどのような反響がありましたか?

非常に感情のこもった反応でした。特にサンパウロでは大きな劇場が満席になり、熱狂的な雰囲気に包まれました。観客の中にはマルセラの祖母や母親もいました。もともと娘の運動への参加に否定的だった彼女たちも、映画を観終わった後にはマルセラの行動に理解を示し、「あなたを誇りに思う。愛している」と繰り返し伝えていました。そのとき私は、家族の絆が深まるのを感じました。

今後この映画が、運動収束後に高校生となった学生たちに当時のことを伝えるとともに、急速に右傾化しているブラジル社会の人々に運動を振り返らせ、政治に対する一人一人の意識を向上させるのに役立つことを期待しています。作品はテレビでの放映も決まっており、どのような反応が起こるのかも楽しみです。

_監督が考える理想の教育とはどのようなものでしょうか?

良い学校というのは、生徒一人一人が個人として尊重され、何を学ぶのかの選択肢が与えられる学校だと思います。数学が好きな生徒は数学を、哲学が好きな生徒は哲学を追求できるというように。そして自分自身を愛し、大切にすることのできる、安全な環境を整えることも大切です。そのために学校の先生には、生徒と同じ目線に立って話をしてほしいと思います。

スマートフォンで簡単に情報が手に入る時代ですが、大事なのは好奇心を持って世界と向き合い、この世界をよりよい場所にしようとする情熱です。学校が生徒に求めるべきは既成の問いに対する答えではなく、自ら問いを立て、考える姿勢だと思います。

 

インタビューを終えて、記念撮影

_最後に、日本の高校生にメッセージをお願いします。

変わること、なにかを変えること、そして自分の意見を言うということを恐れないでください。そして考えたうえで、自分の意見があるなら、きちんと表現の仕方を考えましょう。この映画の主人公たちがデモを始めた当初、政府は別に目を向けてくれませんでした。そこで彼らはそれ以上のことをしないと私たちの話を聞いてくれないと気がつき、クレイジーな戦略を編み出して運動に持ちかけました。

監督として伝えたいのは、とにかく勇気をもって自分の夢を追いかけること、自分を見つけることです。誰に何を言われようが自分の意見があるのだったら、それを絶対発言してください。それは仲間を見つけることで実現できることもあります。一人で発言してもどうしても声が届かないことがあるのです。だから仲間を見つけて、自分の意見を出し合っていくことが大切だと思います。

また、社会をより良い、より包摂的なものにしようとする世界中の運動からアプローチの仕方を学ぶのも必要だ思います。そうすることで自分のやり方を見つけられるかもしれません。とにかく勇気をもって行動すること、変わることを恐れないこと。それを心がけていると、生きている意味を見つけられるでしょう。

ただし、このような運動をする上では自身の安全を守ることが一番大切です。「勇気をもちなさい」と私は言いましたが、それは自分を大事にすることも意味します。暴力を振るわれトラウマになってしまわないように、自分の身をなにより大切にしてください。

_ありがとうございました。

インタビュアー:結城晴花、齋藤公佑、齋藤亮佑、長澤パティ明寿
通訳:林里穂
協力:山形西高新聞部
写真撮影・構成:映画祭事務局
2019年10月15日