8月24日の金曜上映会+やまがた市民映画学校〈柳澤壽男と福祉映画〉『そっちやない、こっちや —コミュニティケアへの道—』上映とトーク

8月24日、故柳澤壽男(やなぎさわ ひさお)監督の福祉5部作の4作目にあたる『そっちやない、こっちや』の上映と、柳澤監督論を中心としたトークが行われました。柳澤監督は、1993年の「アジア千波万波」で審査員をつとめていただくなど、本映画祭ともゆかりがあります。今回トークをお願いしたのは、デザイナーであり映画評論家でもある鈴木一誌(すずき ひとし)さん。フレデリック・ワイズマン監督の評論などでも素晴らしい活躍をされています。

 

鈴木一誌さんによるトークの様子

 

鈴木一誌さんは、2012年1月、東京神田のアテネフランセ文化センターで、「ひとには、そのひと特有のリズムがある 柳澤壽男作品を語る——柳澤壽男 福祉ドキュメンタリー作品特集」という大変聞き応えのある講演を行なっていらっしゃいました、1作だけぽつんと観てもなかなか伝わりにくい柳澤作品の魅力を語ってもらうには、この人が最適との思いがあり、オファーさせていただきました。大変快く引き受けていただけたことが嬉しかったです。トークは、柳澤監督に関する書籍の編さん作業の中から発見された事柄なども盛り込み、とても興味深いものになりました。

 

この日のために準備していただいた詳細な資料を手にお話をされる鈴木一誌さん

 

時事的な話題からスタートして、徐々に柳澤監督論へと展開。興味深いお話が次々に飛び出す

今回の上映の企画は、昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭 2017 での、とある出会いから始まりました。会場のひとつである山形美術館前には、福祉施設「わたしの会社」の桜舎(さくらや)が軽食や飲み物の屋台を出店してくれていました。たまたまそこでパンを買った鈴木一誌さんが、ホテルに戻ってその空袋を捨てようとした時、あることに気がつきました。なんとその袋にデザインされた文字列は、一枚一枚、手描きされたものだったのです。普通なら印刷袋と考えて捨ててしまうところを、デザイナーである鈴木さんは、無地の袋に色鉛筆で描かれたものだと気が付いたのです。まさに、ふたりのアーティストの出会いの瞬間ともいえます。

 

手描きの文字が躍るパン袋

 

ちょうど柳澤監督の全貌をまとめた書籍『そっちやない、こっちや 映画監督・柳澤壽男の世界』(新宿書房)のブックデザインを手がけていた鈴木さんは、タイトルのデザインには手描きのものが良いなと考えていたところだったそうです。そこで早速「わたしの会社」に連絡を取り、袋に文字を描いた施設利用者の女性、遠藤綾(えんどう あや)さんを紹介してもらい、彼女に描いてもらった「そっちやない、こっちや」の文字を題字に使うことになりました。

 

『そっちやない こっちや 映画監督・柳澤壽男の世界』の書影を説明する鈴木一誌さん

さらに聞くこところによると、「わたしの会社」では35年前に開設1周年を記念して、『そっちやない、こっちや』の自主上映会を開催し、なんと柳澤監督をお招きしていたというのです。そしていつかまた『そっちやない、こっちや』を上映したいと考えていたのだそうです。不思議な縁とは重なるもの。本の題字が作られたり、上映会が開かれたりと、こうした結びつきが育んだ人と人との豊かな関係性が、ヤマガタの魅力になっていると思います。

今回の鈴木一誌さんによるトークの採録は、近日中に本映画祭公式サイトに掲載予定です。ご期待ください。

(山形映画祭理事 桝谷秀一)