5月25日[金]〈YIDFF 2017 アンコール6:レバノン、そこにとどまる人々〉

2017年の山形映画祭で上映されたコンペ部門の作品から選りすぐりのものを上映する金曜上映会アンコールシリーズ第6弾! 今回はアジア千波万波の上映作品から、エリアーン・ラヘブ監督の『そこにとどまる人々』と『されど、レバノン』を上映します。

『そこにとどまる人々』 14:00- 19:00-(2回上映)

『そこにとどまる人々』

山形国際ドキュメンタリー映画祭 2017 アジア千波万波 上映作品

監督:エリアーン・ラヘブ/レバノン、アラブ首長国連邦/2016/95分

作品紹介:

シリアとの国境に近いレバノン北部。長く続く宗派間紛争やシリアでの戦闘により農地は放置され、かつては異教徒が隣り合わせで暮らしていた村にも排他的な空気が覆う。ハイカルおじさんはりんごや羊を育て、石を一つひとつ積み上げては、別れた妻や子どもたちがいずれ帰ってくるための家を建て、食堂を切り盛りするルワイダと、いつも通りの日常を送る。この土地に居続ける行為そのものが、まるで使命であるかのように。

 

『そこにとどまる人々』

 

監督のことば:

ハイカルの物語が現在の政治において重要なのは、その名が示すように、彼が地理や宗派が交叉する地域(シーア派が開拓したヘルメルと、スンナ派の支配するレバノン・シリア国境地帯、それから彼の住むキリスト教徒の村)を守護する聖堂のような存在であるからだ。それは、過激派の脅威への恐れが広がるなか、自分たちの土地に留まろうとするキリスト教徒たちの欲望を表している。宗派にこだわる他の村人たちとは違い、ハイカルは自ら手を動かすことで抵抗する。イスラム教徒と共に暮らすキリスト教徒として、彼はこの土地に根付いている。

ハイカルは自らがうちたて守る住処における聖堂のような存在なのだ。『そこにとどまる人々』は、地中海東岸のキリスト教徒をその土地に単に留め置こうとするだけの国内の状況に対するメタファーとしてハイカルの物語を見つめようとするものだが、それは何らかの宗派的立場からなされるのではない。というのも、ハイカルの主要な部分を占めているのは、人間としての彼であって、宗派としての彼ではないのだから。

エリアーン・ラヘブ

エリアーン・ラヘブ監督へのインタビューはこちらでお読みいただけます。監督インタビュー

 

『そこにとどまる人々』

 

 

『されど、レバノン』 16:00-(1回上映)

 

『されど、レバノン』

 

山形国際ドキュメンタリー映画祭 2009 アジア千波万波 奨励賞受賞作品

監督:エリアーン・ラヘブ/レバノン/2008/58分

作品紹介:

紛争が絶え間なく続くレバノンでは、宗派(政党)に関わらず、誰もが傷つき、愛する人を奪われてきた。2006年8月のベイルート。20日間以上、イスラエル軍の爆撃が続く中、30代の監督や友人たち、その親たちの平和を求める思いと行動が行き違う。キリスト教マロン派である監督は、一家や友人たちを映画制作に巻き込み、「これがレバノンなのだ」というあきらめにも似た混沌とした日常を生きる個人の本音をさらけ出す。

監督のことば:

レバノンのような宗派主義の国では、人々はそれぞれの宗派のアイデンティティをもって生まれ、育てられ、形成されていく。私はベイルートで、キリスト教マロン派の家庭に生まれ、その宗教的帰属が、幼いころから自分のアイデンティティとなってきた。私の父はレバノン内戦の間、私たち家族を連れてキリスト教徒ばかりが住む山間部へと移った。父は、そこなら宗派間の虐殺から逃れられると考えたのだ。そこでは私たちは直接、宗派間の争いに巻き込まれることはなかったが、狂信的なキリスト教民兵(レバノン軍団)に“保護”されることとなった。彼らは、イエス・キリストの名において、“キリスト教徒のコミュニティを守る”というスローガンの下、イスラム教徒、パレスティナ人、シリア人、および自分たち以外のキリスト教徒がもたらす悪について、私たちを洗脳した。

私は、内戦後の1990年から2005年の15年間で、宗派主義が、いかに人を破壊し、いかに相互理解と社会正義に対して障壁を築くものなのかを悟った。それは、私の身の周りでも起きている。私の両親、伯父たち、姉妹たちは、キリスト教徒というアイデンティティの中に自分を閉じ込めて孤立し、現在に至るまで、少数派の運命論者として行動し、おびえている。

レバノンは、2005年2月14日から戦争寸前の状態にある。非常に緊迫した情勢で、それぞれのコミュニティ内での宗派抗争がますます激しくなり、私は新たな内戦が起こるのではと懸念している。

映画は人と人とが向き合うための媒体であり、また、対話を開くものだと信じている。だから私の個人的な経験と環境に基づいて、宗派に属さない若い登場人物たちが、自分たちの生い立ち、社会、国に立ち向かう姿を描き、宗派主義に挑む映画を作ることに決めた。この映画が、真の変化をもたらすことを願っている。

エリアーン・ラヘブ

エリアーン・ラヘブ監督へのインタビューはこちらでお読みいただけます。監督インタビュー

 

『されど、レバノン』

 

[会場]山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー試写室
[料金]鑑賞会員無料(入会金・年会費無料)
[主催]認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
[問い合わせ]電話:023-666-4480 e-mail:info@yidff.jp