みどころ

今回は「災害とともに生きる——台湾と日本、継続する映像記録運動」と題して、台湾と日本において長期的に被災地に身をおき、制作を続ける作家の仕事に改めて注目します。
台湾からは、映像制作集団「全景」で活動した黄淑梅の作品を小特集として上映します。921大地震の被災地で、遅々として進まない復興を前に奮闘する住民や支援者の姿をじっくりと記録し、映画全体を通して台湾社会の姿を捉えた『台湾マンボ』、台湾の自然生態文化を歴史的過程からあぶり出し、台湾の現在を優しくも強く後世へと伝えようとする『子どもたちへの手紙』、部族の教育を通して、土地と文化の関係や世代を越えた人びとの絆を描いた『帰郷』の3作品です。また、モーラコット台風の被害と被災地に住む原住民族のあり様を独自の視点で捉えた、蔡一峰、馬躍・比吼、許慧如、3人の監督の作品を上映します。
日本からは、東日本大震災による原発事故から月日が流れ、飯舘村に帰った村民たちの想いを描いた福原悠介の『飯舘村に帰る』や、震災後の陸前高田で制作を続けていた小森はるか+瀬尾夏美の『二重のまち/交代地のうたを編む』などが並びます。
最終日の15日には、出品監督や研究者を招き、日台の作品を通したディスカッションを行います。お見逃しなく!

『春を告げる町』HIRONO

監督、撮影:島田隆一/日本/2019/130分

東日本大震災以降、刻一刻と変わり続ける福島県広野町の景観が長期にわたり記録されている。本作は、これまで/これからも広野町で生活するさまざまな人びとの想いを描くことによって、震災、原発事故が広野町に生きる人びとと町に何をもたらしたのかを、映像に残すことを目的に制作された。そして作品全体を通して、日本の今そのものが語られようとする。

『この空を越えて』Over The Sky

監督、撮影、編集:椎木透子/アメリカ、日本/2019/42分

東日本大震災による被害と原発事故の影響に苛まれながらも、被災から1ヶ月後に練習を再開した福島県南相馬市立原町第一中学校の吹奏楽部。生徒たちの音楽への熱意とそれに懸命に応える顧問の阿部和代の姿を追い、音と想いが紡がれていく。2017年、かつて水爆実験に遭遇した史実を元に作曲された「ラッキードラゴン」を携え、彼らは東京での音楽祭へと向かう。

『未来につなぐために~赤浜 震災から7年』Fight for the Future

監督:小西晴子/日本/2018/52分

東日本大震災における22メートルを超える大津波と火災で壊滅的な状況となった岩手県大槌町。国と県は、津波対策として、高さ14.5メートルの巨大な防潮堤の建設を提示するが、赤浜地区の住民はこれを拒否した。政治状況に揺られながらも、生まれ育った赤浜地区の未来のために闘いを続ける住民たち。その姿を彼らの郷土への想いとともに映像は記録する。

『飯舘村に帰る』Return to Iitate Village

監督、撮影、編集:福原悠介/日本/2019/55分

東日本大震災による原発事故の影響で、思いもよらず避難しなければらなかった福島県飯舘村の人びと。避難指示が解除され、6年以上続いた仮設住宅での暮らしから、村に帰る選択をした村民たちは、かつての村の様子や帰村後の暮らし、村への想いを語る。語りを聞き、身ぶりを捉えた映像の記録。

『二重のまち/交代地のうたを編む』Double Layered Town / Making a Song to Replace Our Positions

監督:小森はるか+瀬尾夏美/日本/2019/81分

2011年の東日本大震災後、小森はるかと瀬尾夏美は、陸前高田で生活をしながら制作を続けた。本作は、2人がワークショップのかたちで4人の出演者を募り、町を訪れた彼らが、人びととそこにある風景へと関わる過程を見つめ、記録している。震災の体験が共有される機会が減りゆくなかで、瀬尾の制作したテキスト「二重のまち」の物語とともに、新たな出会いと対話が展開されていく。

『心の呼び声』Somewhere over the Namasia

監督、編集:蔡一峰(ツァイ・イーフォン)/台湾/2012/58分

高雄県の那ナ マシア瑪夏地区。台風モーラコットによる土石流災害を生き延びたブヌン族の人々は、どこで生活を再建するか決断を迫られる。別の土地に移住するか、再び故郷に戻るか、あるいは転売が許されない無償の被災者支援住宅に一生暮らすのか。しかしいずれを選択しても、「故郷の山に帰る」という彼らの願いは変わらない。

『カナカナブは待っている』Kanakanavu Await

監督:馬躍・比吼(マーヤウ・ビーホウ)/台湾/2010/95分

高雄市を流れる楠ナンズーシェン梓仙溪(川)のほとりに暮らしていた、400人ほどの少数原住民族カナカナブ。台風がもたらした土石流の被害により避難を余儀なくされた彼らは、再び故郷に戻り、自分たちの手で困難な家の再建に取り掛かる。父祖伝来の地で、部族の本来の暮らしと誇りを取り戻すべく奮闘する彼らの姿を記録。

『洪水の後で─家についての12の物語』Twelve Stories About the Flood

監督、編集:許慧如(シュウ・ホイルー)/台湾/2011/60分

台風モーラコットにより大きな被害を被った高雄県那ナマシア瑪夏地区の南ナギサル沙魯部落。被災し、家を失った原住民の人々の、その過酷な現実、悲しみ、絶望を12の物語として記録した。

『台湾マンボ』Formosa Dream, Disrupted

監督:黄淑梅(ホアン・シューメイ)/台湾/2007/145分

台湾921大地震とそれに伴って発生した大規模な地滑り・土石流により、壊滅的な被害を受けた南投県中寮郷。清チンシュイ水村に隣接する12の被災世帯は、山に近い別の土地を借り、一刻も早い家屋の再建を望むが、郡政府の頑迷な官僚主義と規制に阻まれ続ける。監督は彼らの長く苦しい闘いに同伴し、被災者救済に対する政府の硬直的な姿勢を浮き彫りにしていく。YIDFF 2005「大歩向前走─台湾『全景』の試み」にて前作『中寮での出会い』(2005)を上映。

『子どもたちへの手紙』A Letter to Future Children

監督:黄淑梅(ホアン・シューメイ)/台湾/2015/96分

1999年の921大地震の被災地を撮影していたとき、監督は深夜、地滑りに襲われる夢を見る。10年後、その悪夢はモーラコット台風によって現実のものとなった。そして過去の植民地時代より現在に至るまで、この美しい島の自然が為政者や人々によってどのようにぞんざいに扱われ、損なわれてきたかをたどり、その負の記録を未来の世代へと伝えていく。

『故郷はどこに』Out of Place

監督、脚本:許慧如(シュウ・ホイルー)/台湾/2012/78分

一家のルーツが台湾原住民の平ピンプー埔族であるかもしれない監督の夫とその家族。その可能性を探り、自らの民族的アイデンティティについて思いをめぐらす。一方、台風によって大きな被害を受けた被災地・小シャオリン林村では、その平埔族の文化の継承が危機に瀕している。「故郷」の探究と喪失をめぐる思索の旅路。

『帰郷』Coming Home

監督:黄淑梅(ホアン・シューメイ)/台湾/2018/99分

台風モーラコットによって壊滅的な被害を受けた南部・屏ピンドン東県の山岳地域。原住民族のルーツを持つ人々が、災害によって先祖伝来の土地が失われ、民族独自の伝統文化も消えてしまうという危機感から、自然豊かなその土地に戻り、子どもたちに言葉や伝統文化、生活の知恵、そして部族の魂を伝える教育活動を始める。